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汀線

「あんた、本とかよく飽きないね」生乾きのネイル越しに母親が言った。
リビングでは、姿勢良く座った子が本を開き、それに見入っている。
「もっと外行きなよ」母親の、組み変えた足の膝から先が、深く入ったスリットから露出した。

子供は、本など読んではいなかった。
ページを捲ると波の音が立つ、それに気づいてしまっただけなのだ。
ページの汀を捲るたび、波が一つ音を立てて動く。
本を楽器のようにして、それを聞いていたかった。

母親が次に見たものは、子供の消えた部屋と、開かれたままの本だった。
ページには青い海がプリントされ、パシャ、パシャと水面を、誰か泳いで行く音が、白い印字で並んでいった。