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夏の尻尾

石段を登り切って振り返れば、私の町だ。
夏空が暮れてゆき、星がひとつ灯った。
蝉の声が、日々遠くなっている。
去る夏の現在地は、一番近い蝉までの距離で測れそうって思う。

日々の階段ダッシュを続けている。
そこに毎日、猫がくる。
猫は、私を眺めているだけだけれど、この夏、履き潰したスニーカーよりも長く一緒にいたかもしれない。

そう、スニーカー。
私は姉と違ってヒールを履かない。
アクセサリも趣味じゃなく、日焼け止めも塗り忘れる。
姉は春に家を去り、家族もその話を避けたまま、夏が過ぎようとしている。

夕暮れの石段を、また駆け登るために下っていく。

いつも猫のいる所に何か落ちていて、拾うと、姉が好んでいたのと同じ型のチャームだった。
横道を覗くと、猫の尻尾が垣根の下へ消えるところで、どこかの家の夕ご飯の匂いが、路地の風に混じって吹いてきた。

猫の尻尾が、暮らしの明かりや、夕ご飯の匂いを、風とかき混ぜるように、家々の窓で揺れていたらいい。
そんなことを思いながら、日暮れた道端に座り込んだ。