Site Overlay

雨に烟る

先頭で待っていたのに、男は列車に乗らなかった。
人々は怪訝な顔で彼を追い抜いていった。
足音と車両の揺れが、男の目の前で続いた。

男は七月の雨を思い出していた。
短パンで、小さな長靴。
家族は昼寝の最中で、一人濡れる雨は粒が大きかった。
家の裏手を流れる川に、折紙の舟を流す。
舟が雨粒でいっぱいになり、見えるうちに転覆することを期待していた。
目撃者になりたかった。
舟は揺れながら、雨に烟る先へ見えなくなった。

ホームで、男は、雨に降られたように立ち尽くしていた。
記憶の舟に揺れながら、発車のベルを聞いた。
いっぱいの人を乗せ、降るような日々の中に、列車は小さくなっていった。