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みずとかげ

ぴちゃんと音がした。
踏んづけたバス停の影が、みなものように揺れていた。
ちょんと靴の先で確かめると、影はまたぴちゃんと音を立てた。

(いいお天気。でも両親に心配をかけずに帰りたい)
そう思う自分がいた。
なんだか、遠くまで来てしまったみたいで。

影はあちこちにあった。
通りがかる誰が踏んでも、影のみなもは波打ってみせたし、水たまりのような音も立てた。

見入っていると、職員服の女性がやってきて「今日、バスは来ないようですよ」と言い、隣に立った。
彼女の声には親しみがあった。

「明日までお部屋で休まれては?」と彼女。
「そうですね。また明日にしましょうか」
私は彼女と共にバス停を離れた。
「いつもお部屋をありがとうね」という、言い覚えのある言葉が自分の口から出た。
「いつでもあなたのお部屋ですよ」と、聞き覚えのある言葉で彼女が返した。

建物までのスロープにも影が伸びていたので、影で彼女が足を濡らさぬよう、私は反対側へ寄って歩いた。
すると彼女も同じように歩いた。
ああやっぱり、水みたいに揺れるあの影は、ちゃんと彼女の目にも映っているのだ、と安心と共に心の中で思うのだった。