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盗まれて戻る

コンビニの店員が、開いたままの自動ドアを見つめている。
客が入ってきても、足跡が完全に無音である。
レジのボタンを押してみたが、何の音も伴わない。
店員はドアを半歩出て、外の様子を伺った。
夜の、普段なら聞こえている喧噪がない。
シンとした広場に、薄汚れた犬がやって来て、音もなくゴミを漁り始めた。

夜空では、町の明かりが帯状の線となって、反物のようにはためきながら続いている。
消えた音も、その光の帯に合流し、夜の天辺へ向かっている。

広場の大時計で、短針と長針がハサミのように重なり、午前0時を示した。
光の帯が断ち切られ、夜空と町は切り離された。
夜空には、吸い上げられた分の光が丸く溜まって、瓶底のような形の月が生まれていた。

町では、全ての物が一斉に音を発し始めた。
広場では、誰かの吹く口笛が、曲の途中から聞こえ始めた。
酔っ払いの喧嘩もある。
タクシーがドアを閉めて走り出す音も響く。
犬が一心にゴミを漁る音と、それから自動ドアの開閉する音が戻って、いつもの町だ。
喧騒が、町の低い場所から溜まっていく。