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暦だけ先に行く町

 暦だけ先に行く町に住んでいたりする。

 準特急さえ停まらない。けれど、駅前にはまだ活気が生き残り、長年愛されてきた和菓子屋さんが、商店街よりも知られている、そんな感じの町だ。

 地域行事の準備が早くて、気象予報はどこを見ても当たらない。

 体の芯には、まだ冷たい季節が残っている気がするのに、気の早いこの町はもう、勝手に夏日になったと思う。

 先取りが過ぎるわって思いながら、想像の中で、冬のソリに乗ったまま、夏の溶鉱炉へ突入していくシーンに浸ってみた。

 暦だけ先に行く町。

 その名前は、この町を早々に捨てた作家の人がどこかに書いていた一文で、高校生になってからは、その呼び方を特別に採用している(主に私が)

 学校を出てたら、駅舎のあちら側からこちら側へ。
 電車になんて乗らずして、そのまま帰宅路、変わり映えしない。

 夕焼けちょっと前の光が、駅前商店街に溢れてきて、焼き色をつける直前の、トーストみたいな輝きを見せている。

 家路には、その色の輝かしいカーペットが敷かれている。

 私に帰る気持ちがなくても、結局どの道も家路へ続いているせいで、ちょっとした寂しさも手短に、行き詰まるようになってる(気分になる)

 八百屋の店先で葱を積み増すおじさんの頭に、反射した蜜色の光が当たっている。

 水飲み場ではしゃぐ声と、道端に置かれているランドセル、そして地域猫の姿を見つける。

 私の心か、体の芯は、まだ冷たくて、前の季節のままのように思うのに、でも勝手に皮膚の外側だけが、ジリジリ暑くて、気の早い町。

 その中を通り抜けて帰っている。

 ばっと鳩が飛び立ったあとに、砂礫やガラス片が残っている。

 やたら気を引く白いものが転がっていて、それは妙に白くて、大きなマシュマロのようだったけれど、つま先で突いてみると、ただの硬い石だった。

 私はその石に名付けを施す、など、することにした。

 お前の名前は「マシュー」

 「マシュー!」と、名前を呼びながら、私は石を蹴っ飛ばす。

 石が転がるたび、こいつにつられて、私の心は私から少し離れて、少しだけ先を行くような気持ちになる。

 また、「マシュー!」と叫びながら、蹴った後すぐに追いかける。

 行為に何の意味があるか問われても、私には何一つ答えない。

 私はマシューを蹴り飛ばし、短い直線を繋げながら、明るすぎる初夏の暮れへと進む。

 戻るように進み、進むように蹴飛ばし、離れた分を測るように追う。

 町は後方だけ先に、色濃い夕焼けへ溶け落ちていく気配がする。

 私は、転がる先ごとに折れ曲がり、カクカク先導するマシューを追って、折れ線で家路を繋ぎながら、こういう日の終わり方を、また一日、一回、増やしている。

 暦だけ先に行く町で、夕景というには、明るすぎる家路で、蹴った石を蹴った分だけ追って、また私はもう一日、この道を帰っていってる。