Site Overlay

時やその水辺・八景


1,『池と季節』

池にむかってカエルがはねた
高く飛んでいるうちに、季節がぐんぐん、過ぎて、いって、しまって、カエルは凍った冬の池に落ちた


2,『うつむく』

魚を見ていた犬の目は、涙がたまって水槽になり、魚もそこで泳ぎ始めた
両目の水槽がとても重たく、今日、犬は名前を呼ばれたときでも、顔を上げるのが大変だった


3,『夜のひと瓶』

酒瓶に、夜を封じてきたと、彼らは言った
ショットグラスの黒い川、朝には揮発してしまうぞと、一人は一気に飲み干して正体をなくし、機を逸した方は揮発して心をなくした。
抜け殻は、朝の投石に使われている


4,『夏の思い出』

カーテンの隙間から差し込む、波形の光
風に吹かれてゆれるたび、海の匂いが濃くなった
母は「潮風に酔った」と仰向けになって、顔に腕を乗せたまま、それきり家事をしなくなった


5,『夢は見てない』

電球が壊れると、部屋が夜になってしまうので、市販の太陽に交換してもらったが、ずっと昼間の太陽は眩しく、いつも目隠しをして暮らしている


6,『霧の中』

大統領がお話に税金をかけたので、絵本はぜんぶ真っ白です
こっそりお話を書いたら、夜のようにひと色の、何者かによって盗まれてしまい、窓の外は、朝からこんなにも白い闇


7,『国の名』

地図が足を伸ばして、歩き回って、各地の写真を撮って、でも、伸ばした足があまりにも長かったから、地図は地球の上に転んでしまって、いま、君のいた国は何と呼ばれているのですか


8,『著者近影』

ばちんと音を立て、書斎の電球がひとつ切れた
その時、君は、君の影が壁の前を移動し、書棚の裏へ隠れるのを見た
君は部屋の明かりを全て落とした
月光が影を引きずり出し、白い壁に、君とは違う、君でない形の人影を映した