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第三十七番歯車

 あえて言うべきではないだろうか。第三十七番歯車の仕事は、実に素晴らしいものであった、と。
 動力部長は、場の隅々まで行き渡るよう声を張って響かせた。
 さよう。第三十七番歯車の働きぶりといったら。軸課長の声は控えめではあったものの、聴く者の耳にもれなく届いた。
 そしてそれを、ひたむきに続けたのだからね。
 それにしても、だ。
 ああ、それにしてもだよ。
 関係者の多くが、しんとした中、計器係がひとつ咳払いをした。ええ、第三十七番歯車の真摯な仕事ぶりは、称えられるべきものでした。であったにもかかわらず、その先のいかなる仕組みとも関連していなかったことは、誠に残念です。
 そう、そこなんだよ。動力部長が神妙な面持ちになって黙った。
 軸課長は小さな眼鏡を外してうつむくと、レンズを丁寧に拭きはじめた。
 だから今、あの第三十七番歯車は。と、機械油見回り組の組長が、誰に言うでもなくつぶやいた。
 歯並びが問題だったのだ。と、軸課長が切り出した。いいかね、第三十七番歯車は、役割としての立場を一身に引き受けたのだよ。けれどもだね、それを動力として伝える仕組みを、誰かが与え忘れた。
 ふう。というため息のあと、動力部長が肩を落とした。まったくもって皆さん。あれほどまでに一途で懸命な第三十七番歯車の働き。にも関わらず、その先の成果には、ひとつも関係していなかったなどと、一体どれほど大きなため息をついたらいいものか。
 その後、場は沈黙でいっぱいになった。
 今では、と軸課長が控えめに切り出した。第三十七番歯車は、持っていた歯を失ってしまい、残された字のごとく、巨大な車に似る働きとなって、我々の一切を載せ、一つの方向へと運んでくれている。
 さよう。今度は計器係がうつむきがちに述べた。我々はこの後悔によって、姿を変えてしまった第三十七番の働きを発見したわけだが、しかし第三十七番自身は、はたして今のような立場を望んでいただろうか。
 我々のすべてが!
 動力部長は一段と声を大きくして言った。今はもちろん第三十七番だった彼の者を思い、ひとつの総意のもとに動作していると言えるだろう。しかし第三十七番はこれを目指していただろうか。必要なのは、皆で第三十七番の代わりに悲嘆の声をあげる、そういう話なのではなかろうか。

 波が伝わるように、ぱちぱちぱちぱちぱちと電気が通っていった。
 ギヤが切り変わり、接続された機械ひとつひとつが動作して、動力が伝わり、低くうなりが上がる。これら全てを内包して、夜のように巨大なものは、無言のまま一切を載せ、方角の見えない空間をなめらかに走り出した。