Site Overlay

残る半片をいう声

 今日までが ふたつあって、
 明日には ひとつと別れる。

 いつもの席のモーニング。
 半熟の卵と、パンにソーセージの盛り合わせ。それに紅茶を選んで。
 もうひとつでは、
 枕もとの 水差しと 花瓶があって、ベッド。間仕切りのカーテンに朝日、白く光っている。

 カフェの、バックグラウンド・ミュージック。
 その途切れで 新聞を広げ、紅茶を一口。
 夢であればいいような記事が、見出しで事実を告げている。

 病室の開いた扉に 二回、急ぎのノックと繋がる、小さくて早い足音。
 そしてすぐ、ベッドの揺れがある。
「もう治った?」と 幼い声。
 カーテンは明るい。

 今あるここを、半径として見渡す。
 見える世界中を、視界に収める。

 今日がひとつ残って、
 初めからふたつはなかった、と いうことに決まっている。

 こんな日の来ることを、ずっと、ずっと、知っていた気がする。
 今日を最後に、ひとつきりになる。
 丁寧に 生きてきたつもりだけれど、片方は 先に消えるのだ。

 カフェの 大きなガラス窓の向こうに、上映されているような、たくさんの 人たち
 その、今を見ている。
 声はなくても、セリフはそれぞれ 服の色に見え隠れする。
 傘を差すには早いけれど あやしい雲行き。みんな
 畳んで、腕にかけて 手放せない 傘通り。

 同室の子が押したナースコールに 応答があって、
 点滴の交換について話をしている。傍らには分厚い本があって、
 半分読み進んだところで 止まっている。

 今日までが ふたつあって、ひとつが残る。

 おかわりはいかがですか、と、新顔の店員が訊ねた。
 いただきます、と、ポットを指さしてから、新聞を畳んで置いた。
 明日 また流動食に戻しますね、と、年配の看護師が
 手付かずのトレーを下げていった。すみません。
 あれ、新聞は、どこだったかな。ああ、そうだ。夢であればいいのに
 と 思うような見出しの載った記事。読みかけの、
 あれが、カフェで、そうガラスの向こう側では、みんな
 傘を持って 歩いていた。みんな 待ち合わせのある人。

「あした治る?」と訊かれて 頷きながら窓を見れば、そこに
 輝いている、白いカーテンの 病室は 光。

 ああ、そうか。
 今日までは ふたつあって、今から ひとつと別れるのだ。

 新しい紅茶は注がれていく。新しいシーツは運ばれてくる。
 今日までが ふたつあって、これでひとつが なくなってしまうのだ。

 私に知れない明日がひとつ、来ることに決まったのだ。