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湖底の灯

背中のほうが、気球みたいに ふくらんで、
昇っていこうとする。そんな
宵いろ空を 着ているのだけれど、でも、細かな生活のあれこれを、
両腕で 抱き集めるようにして、
胸のした辺りに抱えているから、飛んではいきません。
丘の上から、住んでいる町を見おろすような、(生活の取りまとめ)
それを、碇のように抱えています。

背中が、空いっぱいに暮れるまで そう、ふくらんで
遠く昇っていって しまいそうになる、そんな
宵いろ空を 着たまま、暮らしを見おろして
すると、
盆地にたまる影がさきに、低い土地から湖のような夜をつくり
夜の湖へは、星のかわりに、窓明りが集まって 沈みました。

あれが、みんなのいる、細かな生活、その領域。
隣のあなたが、唐突に言うのです。───「ほら、花火」と。

とーん。
と、小太鼓をひとつ 叩いたような音がして、
おおきく両腕で抱えてきた、暗い湖底で花火が上がり、
低く溶けるように 消えました。

暗い湖の底には、鉱脈のような配列で、町の星々が灯っています。
細かく砕いて、沈めたような 光と光。
その真ん中を、小窓の列が
コンコンと 積み木で叩くような音を立てて、進んでいきます。

「あ、電車───、」

とーん。
と、またひとつ、抱えている夜の湖底で、花火が上がるのを見おろしました。

(ああ、湖の底は賑やかだ。
 看板が、ピンクやグリーンの蛍光色を散らしているし、
 調理は家庭の火加減によって あんなにも色が違う)

コンコンと 積み木で叩くような音を立てて、進んでいた電車が
ゆるやかなカーブを描き、遠くなっていく。

背中のほうでは、
宵いろ空の服が気球のように ふくらみ続け、
衝動的に
みんなを
わたくしから
手放して
しまい
そうな予感が、ずっと
消えないのですけれど、
これらの全体へ 大きく両腕を回し、
遠くなってしまわないよう、
細かな生活と 向きの違う事情の、全体を抱えています。

今夜も膝を曲げ、
抱きかかえた湖底の町に 顔を寄せていきます。
突き出した膝の 稜線の下へと、
月のように 沈めてゆきます。