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心細い音

『心細い音』

  冬はコツコツ 鋭くノミを当て、
       木彫りの夜を 彫って広げた。

   ある時、丸盆のような月を、真っ二つ
   乾いた音で 割ってしまった。

高らかに鳴り響いた その月の音は、
  数多の星々を はじきながら駆け回り、
    また幾千という地上の灯を打ち 叩いて、
  灯火の一切を 吹き飛ばした。
    それから音は閉じた夜の中、
     いつまでも 残響となって残った。

     いる いない も不確かになる、
       後も 先も 見えない夜
                 だ

時折り残響が、波形の線を横に走らせ、
さざ波のように打ち寄せた。
 波は 足元を過ぎる際、
  踝くるぶしの高さで 心細い音の渦をつくって、
   それから何事も なかったかのように
  沖へと返った。

                ────「心細い音」