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傘の木

実家の庭に、傘を植えている弟の、後ろ姿をみつめていた。
彼は植えた傘へ水をやり、聴かせるような口笛も吹いた。

彼の行動を、私は理解できなかった。
目が合ったとき弟は、「傘の木だよ」といって、下向きに小さく笑った。

短い秋を挟み、冬となってなお、彼は傘に水を与え続けた。
傘は褪せていくだけで、何も生みはしなかった。

四季がひと巡りした朝。傘から別の傘が生えた。
新しく開いた傘の影は、庭の一画を暗くして、そこには雨の音が始まっていた。
「予報通りさ」
そう呟く弟の言葉を追うように、頭上でも雲が広がって、二人きり遺されたこの家の全体を、静かに濡らし始めた。