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湖底喫茶-minasoko

メニューから「無音コーヒー」を選び、口をつけた。
すると耳の辺りで「とぷん」と音がした。

僕はゆっくりと天井から沈降し始め、さっきと同じ椅子に音もなく着席した。

水底の席には街の喧騒も届かず、自分は水槽の魚になった気分だった。
日々のことも、空事のように遠く他人事だった。

コーヒーを飲み干すと、店を満たしていた水らしきものが排出され、場は、あっけなく元に戻った。

「音の深さ、どうでした?」店員が聞いた。
「静寂があった」と僕は答えた。
「もっと深いのもあります」と店員が言ったが、僕は曖昧な返事で店を後にし、喧騒が、夏の日差しのように満ちている通りを急いだ。