Site Overlay

パンと鍵

十五夜の光に白く染って、私は、母が見せてくれた手品を思い出していた。

遠い記憶の母は両手を上げ、月を挟むように「パン!」と手を合わせる。母の手には真っ白なサンドイッチ。ミントの風味がしたように思う。

私も夜空に手を伸ばし、小さく手を打ってみた。
するとミニチュアサイズの鍵が生まれて落ちた。

次は思い切って大きな音で手を打って合わせた。手の中に白くて立派な鍵が現れた。満月が幾分小さくなったように思える。

鍵を持って月のほうへ伸ばすと、宙空に手応えがあった。
引っ掛けたままゆっくり回すと、月が歯車の音を立てて回転を始めた。

背後で扉が開き、「ママ!」と叫ぶ娘の声が迫った。