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渡る秒針

最後の思い出作りに、と声がかかり、取り壊し迫る団地に集った老人たちと、夕陽が沈むのを眺めていた。

あの頃、この屋上から何度も飛んだものだと、思い返した。
空想を翼にして、屋上から隣の屋上へ。
この町から、もっと大きな町へと。

「世間なんて、大時計の遅い針」とみなした頃の私は、壊れた秒針のように心を回転させていただけだった。

電線が夕景へ水平線を引き、空と町とを隔てていた。

結局、空高く飛ぶことなど叶わずに、移動ばかりを繰り返す日々だった。
見れば両手は枯れ枝のようで、今や世間こそ壊れた秒針のように回転してみえる。

代わりに私の心の時計は遅くなり「進むも止まるも誤差のようなものですよ」と、案内の年若き市職員を捕まえて、語りかけたくなっている始末だ。