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カフェの逆さ話

朝から調子が悪い。

まず、コーヒーを注文した時から変で、話が噛み合わない。バリスタの言葉は理解さえできなかった。
それでも手順はいつも通りだし、支払いを終え、トレーに乗せたコーヒーと共に席についた。
持ってきた雑誌を広げたが、記事の見出しが読めなかった。
どういうことかわからない。隣席の、見覚えある常連客同士の会話も、意味として入ってこない。

「妙だな」と思いながら周囲を観察すると、どの客も、飲み干したコーヒーカップをひっくり返して置き、逆さまになったカップを底側から覗き込んでいる。そこに何かを読み取って、ふんふんと頷いているものさえいる。

隣席の、常連客の一方がコーヒーを飲み干し、カップを逆さに置いた。すると初めて理解できる言葉で「今夜は雨になるそうよ」と言った。
相席の常連のほうも何か返事をしたのだけれど、そちらの言葉はわからない。

もしや言葉の順番が、逆さまになっていないだろうか。つまり、わたしの頭が、何かおかしな処理を始めて混乱しているのではないだろうか。いや、待ってよ、待って。それにしては、皆がみんな奇妙な行動をしていたように見えたよ。

わたしはコーヒーを高く持ち上げて、カップを底から覗こうとした。
中身のたっぷり入ったコーヒーカップは意外と重く、大きく揺らしてしまったはずみに、中身をこぼしてしまった。
こぼれ落ちたコーヒーは、テーブルの表面でバウンドし、豆になって散らばった。

やっぱりこんなの、順序がおかしいに決まっている。
わたしはまだ熱いコーヒーを急いで飲み干し、カップを逆さまに置いてみた。

奇妙な現象は、あっさりおさまった。周囲の人々の言葉も、ちゃんと理解できる。
ただ、期待したような、つまり何かしらの答えが、コーヒーカップの底に書かれているわけではなかった。

結局、気持ちの置き所が見つからないままで、熱いコーヒーを一杯、急いで飲んだにすぎない。
そんな朝に取り残されて、わたしは一人座り続けた。